2024年09月21日
- メンタルヘルス
WAIS-Ⅳ知能検査とは? 検査の内容や料金・保険適用についてご解説します。
認知行動療法カウンセリングセンター広島店代表の岡村と申します。私はこれまで心理士としてさまざまなこころの困りごとを抱える方に対して認知行動療法を専門とするカウンセリングを実施してきました。
みなさんは「知能検査」という言葉を聞いたことがありますか?
多くの方が一度は耳にしたことがあるかもしれませんが、具体的に何が測定され、どのように使われるのかはあまり知られていないかもしれません。
中でも、WAIS-Ⅳという知能検査は、成人の知能を総合的に評価するための信頼性の高いツールとして、心理臨床の場で広く使用されています。
本記事では、WAIS-Ⅳがどのような検査であるのか、検査の内容や料金、さらに保険適用等について詳しく解説します。
WAIS-Ⅳとは?
WAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale、通称ウェイス)は、アメリカの心理学者デビッド・ウェクスラーによって開発された、ウェクスラー式知能検査のひとつです。16歳0ヶ月から90歳11ヶ月の青年および成人の知的能力を多面的に評価するために設計されました。WAISの初版は1939年に公開され、現在は2018年に発行された第4版(WAIS-Ⅳ)が広く使用されています。この検査は個人の言語理解、処理速度、記憶、論理的思考能力など、幅広い認知能力を測定します。
ウェクスラー式知能検査の検査結果には、DIQ(偏差知能指数)が使用されます。DIQは以下の式によって算出されます。
DIQ={(個人の得点―同年齢集団の平均点)÷同年齢集団の標準偏差×15}+100
この公式により、DIQは年齢を問わず、平均点が100点、標準偏差が15点となります。
また、ウェクスラー式知能検査には、2歳6ヶ月〜7歳3ヶ月の子どもを対象とした幼児用のWPPSI(Wechsler Preschool and Primary Scale of Intelligence)、5歳0ヶ月〜16歳11ヶ月の子どもを対象とした、児童版のWISC(Wechsler Intelligence Scale for Children、通称ウィスク)があります。
※標準偏差(SD)=データのバラつき具合を表す散布度のひとつ。
WAIS-Ⅳの目的と検査内容
WAIS-Ⅳといった知能検査は、知的発達の程度を測る目的のほか、自分自身の知的特性や能力の特徴を理解するために使用されます。具体的には、以下のような目的を持っていると考えられています。
1.同年齢または同世代との比較による自己理解
WAIS-Ⅳを受けることで、同年齢者集団の知的発達水準と比べて自分がどの位置にあるのかを知ることができます。これにより、自分の知的能力が他者と比べてどのような特徴を持っているかを把握することができます。自分の知的特徴を理解することで、自己理解が深まることが考えられます。
2.自分の中での能力の凹凸を知る
WAIS-Ⅳは、言語理解指標(VCI)、知覚推理(PRI)、ワーキングメモリー(WMI)、処理速度(PSI)という4つの指標得点を検査し、その合成得点から全検査IQ(FSIQ)を算出するため、自分の能力の凹凸、つまり得意な領域と不得意な領域を知ることができます。これにより、得意能力を活かして不得意能力をフォローする手立てを考えることや、自分の能力が発揮される環境づくりの手助けとなります。
3.今度の生活へのヒント
WAIS-Ⅳの結果は、今後の生活をより良くするためのヒントを提供します。自分の認知的特性や能力のバランスを理解することで、日常生活や対人関係におけるより良い選択肢を考える材料となります。
WAIS-Ⅳの検査内容
WAIS-Ⅳでは15の下位検査(基本検査:10、補助検査:5)で構成されており、10の基本検査を実施することで、全検査IQ(FSIQ)、言語理解指標(VCI)、知覚推理指標(PRI)、ワーキングメモリー指標(WMI)、処理速度指標(PSI)の5つの合成得点を算出します。各指標得点間に有意差が現れることをディスクレパンシーとよび、知的能力の発達や精神機能に何らかの異常が生じている可能性が示唆されます。このような特徴から、ウェクスラー式知能検査は、「診断的知能検査」の一種とされています。
全検査IQ(FSIQ) | ||||
言語理解指標(VCI) | 知覚推理指標(PRI) | ワーキングメモリー指標(WMI) | 処理速度指標(PSI) | |
基本検査 | 類似単語知識 | 積木模様行列推理パズル | 数唱算数 | 記号探し符号 |
補助検査 | 理解 | バランス(16〜69歳のみ)絵の完成 | 語音整列(16〜69歳のみ) | 絵の抹消(16〜69歳のみ) |
・言語理解指標(VCI)
言語刺激を処理する力、言語概念、事実的知識が蓄えられているかを測定しており、言葉による説明や表現する力も見ることができます。
VCIの下位検査 | |
類似 | 概念を理解し、推理する能力をみる |
単語 | 単語の知識や言語概念の形成について |
知識 | 一般的な事実に関する知識の量や学習について |
理解 | 社会性や一般常識を理解する能力をみる |
※太字は基本検査
・知覚推理指標(PRI)
視覚的な情報を把握し推理する力を測定しています。また、視覚的情報にあわせて体を動かす力に関する指標です。新しい情報に対する解決能力や対応力にも影響すると考えられています。
PRIの下位検査 | |
積木模様 | 抽象的な視覚刺激を分析して統合する能力をみる |
行列推理 | 流動性知能や視覚性知能、空間に関する能力をみる |
パズル | 視覚刺激に関する能力をみる |
バランス | 量的推理、類比的推理の能力をみる |
絵の完成 | 重要な点と、そうでない点を見分ける能力をみる |
※太字は基本検査
・ワーキングメモリー指標(WMI)
聴覚的な情報を短期的記憶に留めて、その情報を頭の中で整理しながら考える力を測定します。
WMIの下位検査 | |
数唱 | 記憶力や注意力に関する能力をみる |
算数 | 計算能力や記憶力に関する能力をみる |
語音整列 | 記憶力、継次処理、注意力に関する能力をみる |
※太字は基本検査
・処理速度指標(PSI)
単純な視覚情報を素早く正確に判断して、その結果を正確に書く力を測定することができます。プレッシャーのある中で、正確かつ円滑に処理することが求められます。
PSIの下位検査 | |
記号探し | 作業効率や集中力に関する能力をみる |
符号 | 視覚的な認知やスピードに関する能力をみる |
絵の抹消 | 選択的な注意や運動に関する能力をみる |
※太字は基本検査
所用時間
WAIS-IVの検査は通常、約60~90分で行われます。検査は個別に行われ、検査者と1対1で進められるため、受検者の集中力や疲労度に応じて柔軟に対応することが可能です。検査者は、受験者の反応を観察しながら、検査がスムーズに進行するようサポートします。
WAIS-Ⅳを受検場所と料金、保険適用について
受検場所
WAIS-Ⅳは、検査を導入している精神科や心療内科、大学付属心理相談センター、民間のカウンセリングルームなどで受けることができます。
料金と保険適用
WAIS-IVの検査料金は地域や医療機関、保険適用か自費かによって異なりますが、一般的には1万円から3万円程度が相場とされています。検査を行う機関によって料金が大きく変動することがありますので注意が必要です。
医療機関の場合
WAIS-Ⅳは保険が適用できます。そのため、医療機関で受検する際、診療上必要と認められる等、特定の条件下で保険が適用されることがあります。また、検査自体は保険が適用されますが、報告書作成や結果のフィードバック面接等、別途費用が発生することがあります。
自費での検査の場合
自費で検査を受ける場合、各機関によって設定される金額は大きく異なりますので、ますはお近くの医療機関のHPなどで確認してみると良いでしょう。
大学付属心理相談センター
大学が外部に向けて開設している心理相談センターのような場所で、所属の学生に限らず一般の方も検査を有料で申し込めることもあります。この場合、一般的な自費診療よりも費用が安いことが多いようです。
WAIS-Ⅳを受検する際は、事前に料金についてしっかりと確認することが望ましいでしょう
まとめ
WAIS-IVは、認知能力の多面的な評価を通じて、自分自身の知的特性を理解し、より良い生活を送るための手がかりを得るための貴重な手段となるでしょう。ただし、その結果だけで発達障害の診断を確定するものではありません。また、受検場所により費用が大きく異なる可能性があります。事前に受検を考えている機関に問い合わせた上で受験するかどうか決めることを望ましいでしょう。
認知行動療法カウンセリングセンターでも、WAIS-Ⅳ知能検査を実施しておりますので、お気軽にご相談ください。
認知行動療法カウンセリングセンター広島店
https://hiroshima.cbt-mental.co.jp/
——筆者情報——
岡村優希
株式会社CBTメンタルサポート 代表取締役
認知行動療法カウンセリングセンター代表
公認心理師、臨床心理士、認定行動療法士
個人事業主として私設カウンセリングルームの運営を経て、株式会社CBTメンタルサポートを創業し、メンタルヘルス支援者向けのサービス事業を展開している。主宰しているオンラインコミュニティ『認知行動療法の学校』の会員数は約400名。
さらに、カウンセリングルームを全国に5店舗運営しており、全国展開を目指している。
◆執筆書籍
「臨床心理学 〈123(第21巻第3号)〉 問いからはじまる面接構造論 「枠」と「設定」へのまなざし」金剛出版
「遠隔心理支援スキルガイド」 誠信書房
◆テレビ出演
読売テレビ「かんさい情報ネットten.」2024年7月4日
「あなたの味方!お役に立ちます」のコーナーに高所恐怖克服のための専門家として出演
◆雑誌掲載
「からだにいいこと」 2022年12月号、2023年2月号
◆近年の講演実績
2024年2月21日
広島大学医学部にて「セルフケアに役立つ認知行動療法入門」についての講師
2023年2月9日
NTT PARAVITA株式会社にて「認知行動療法」をテーマとした社内研修の講師
2022年7月6日
筑波大学医学医療系精神医学の勉強会で「パニック症の認知行動療法」についての講師
その他、学会発表多数
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